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コロナ禍の経済への影響とシステム開発の今後

コロナウイルス感染拡大問題は、本稿執筆時点(2020年5月24日)ではいよいよ東京も緊急事態宣言が明けようとしており、一定の抑止を見たのかもしれませんが、経済ではまだまだ波及があると思われます。

一部の人は「リーマンショックほど悪くなる気がしない」とまで言い切っていたり、逆に「史上最大のショックが来る」と言っていたり、様々な意見があります。

本稿では(経済の専門家でもない私の)個人的見解と、そこから見たシステム開発・SES業界の現在と今後に関して、書いてみたいと思います。

コロナショックの存在とマクロ経済の方向性

まずそもそもに経済における「コロナショック」が存在するかどうかという見解について、私は「存在する」と思っています。

それも、リーマンショックを上回る、史上最悪規模ではないか、と見ています。

根拠はといえば、これほどまでに実体経済が先に影響を受けたことが過去に無いこと、過去の恐慌の時よりは金融市場も実体取引も現在のほうがはるかにグローバル化していて、影響が相互に複雑に絡み合う上に、感染症対策という医学的側面から見ればとても脆弱であること、などです。

日本においても既にデマに端を発したトイレットペーパー不足から、ずっと続いていたマスク不足など、物資の問題まで発生しました。

特にマスクの問題を通して、世界中が一部の物資を中国に依存していた事への危機感を強めているように、グローバルに展開していたビジネスのリスクヘッジを考え始めているように見えます。

これは、文字通りの「リセッション」の土台となるでしょうし、経済を発展させる事よりも破滅させないための安定化をしばらくは優先するのではないでしょうか。

日本ではバブル崩壊後の長引く低迷によって、金融政策で出来る事はかなり限られており、もはや下げられる金利はありませんので、日銀によるETFの直接買い支えが柱となり、「日銀の債務超過」の恐れまで言われています。

財政政策においても規模はかなりの巨額に及び、元々「国民一人あたりの借金」などといった微妙な表現でマスコミが叩くくらいに財政健全化の方向を重視していた日本にとっては、もはや国債の追加発行などはまぬがれない事態となってきているのではないでしょうか。

反面、「仮に日銀が債務超過に陥ったところで、政府との連結会計で見れば債務超過には程遠い」という意見もあり、MMT、現代貨幣理論においては、適切なインフレ率を通貨発行によって維持するという見方があり、不景気においてデフレ局面となる事を考えれば「財政赤字の拡大や政府債務の増大など気にしなくてよい」という極端な見方もあります。

ここはかなり両極端な議論があるようですので、専門家でもない私には難しいところなのですが、ある意味では「お金が無いならお札をジャンジャン刷ればいい」という子供のような意見が正しいのだろうかという側面と、しかし「スタグフレーションなどのリスクはどうするのだろう」という側面とを感じます。

いずれにせよ、これだけ日銀が動き、財政政策の規模も大きくなれば、過去に実際にやったことのない、人類史上初めての領域に踏み込んでいくのだと思われます。

リーマンショック時は「金融ショック」という、実体経済とは全く関係のない所からショックが拡大しましたが、これは現代経済において高度な金融システムを持っていたから起きた事にほかならず、リーマンショック後は更に金融システムが発展しています。

そこも含めて現代においては100年前の世界恐慌時とは比べるべくもない経済・金融システムの発展がありますので、どうあれ人類史上初めての局面になっていくのでしょう。

今回のショックが金融ショックにまで発展していくのかは分かりませんが、FRBがジャンク債まで買い支えに向かうなど、ある程度のリスクは取りながら金融政策を行っていますから、日本においても万が一地方の金融機関に危機などが訪れ、信用の引き締めなどあるようでは、急激に金融ショックに陥る危険性はゼロではないのだと思います。

思ったよりも強い日本の対感染症体質

2020年3月時点では、危機感が日に日に増しながら、強い懸念を言う人、楽観論を繰り広げる人、様々でした。

そこから2ヵ月以上が経った今、少なくとも1つ言えることは「日本は今回のコロナウイルス感染症に、欧米に比べれば強いらしい」という事だと思います。

世界から見れば、強いロックダウンにも至っておらず、平時から世界的には白い目で見る満員電車の通勤問題なども3月時点まで平気で継続していたなど、感染症予防の観点から見ればかなり「ゆるい対応」であったのは事実です。

しかしそこから見ても、現時点で医療崩壊も起きておらず、一定の封じ込めに成功し、いよいよ緊急事態宣言の解除、コロナウイルスと共存していく新しいステージへと入ろうとしているのです。

日本が案外強かった説として、元々なんらかの耐性を持っていた、マスクを早い段階から着用していたから、そもそも綺麗好きで衛生的だから、など様々な説が言われています。

個人的にはやはり、「手洗いうがい文化」もさることながら「家の中が土足ではないこと」が大きい気がしています。

欧米では家の中も土足ですから、家の外と中とで、それほどの区別がありません。しかし日本は靴を抜いで家に上がりますから、そのタイミングで手洗いうがいがあり、服も着替えたりなどと、明確に区分けが存在します。

これが、大きかったのではないでしょうか。 いずれにせよ日本は思ったよりは被害が拡大しませんでした。

日本経済へのコロナショックの影響

しかし4月の多くと5月のほとんどの売り上げを失った一部産業の痛手は大きく、キャッシュがどれだけあるかという体力勝負に、既になっています。

日本の企業は世界でも有数の内部留保を多く取る体質で、それが平時には投資を阻み経済の流動性を阻害していましたから、内部留保金課税など様々な手で内部留保を投資にまわさせようとしていましたが、皮肉な事に今回のショックにおいては「ショックに耐えられる強い日本企業」を強く印象付けています。

素早い経営者、かつ信用力のある企業は既に3月時点でコミットメントラインの設定などキャッシュの確保に走っており、絶大な体力を誇っています。

ただ皆がそのように大きな内部留保や与信があるわけでもありませんので、今後キャッシュ不足が深刻化すれば、黒字倒産も出てくるのでしょう。

特に飲食などは元々の利益率も決して高くはなく、上手くいって追加の借入に成功したとしても、それを返すだけの利益が将来に出るのかどうか、将来に問題を先送りにしている面も否めません。

日本の経営者はアメリカの経営者などと違い、なかなか企業を解散する決断をしません。

これはある意味では「企業の流動性が低い」という言い方も出来るかもしれませんが、簡単に再チャレンジをできない風土もあると思います。

その結果、アメリカなど経済も雇用も流動性が極めて高い環境下では「一旦諦めて将来に再チャレンジする」という割り切った考え方が出るところでも、「ひたすらひたすら粘った挙句に被害が拡大して倒れる」という形になりかねない懸念があります。

そういった意味で今耐えていても、今後、債務が更に拡大した形で倒産する企業も出てくるでしょうから、債権者にとってはより大きな被害となりかねません。

コロナショックが起きたタイミングも、日本経済にとってはとても悪かったと思います。

3月期決算の企業が多くを占める日本にとって、その3月も末頃になってようやくコロナへの危機感が本格化したというのは、「年間の投資計画を決めるタイミングの直後」という恐れがあり、感度の高い経営者は素早く下方修正を間に合わせてきたとはいえ、そこは3月時点で既に大きく低下していた投資における含み損の減損なども多く、4月以降に表面化してくる実体経済のダメージと連鎖する影響を全て織り込めているとは、個人的には思えません。 3月期決算の企業の決算報告はそろそろ出始めていますが、「緊急事態宣言の影響」とか「自粛の影響」という文言が出てくる混乱(正しくは緊急事態宣言は4月7日に出され、多くの本格的な自粛もそれ以後です)があるように、まだまだ実態を汲み取れていない部分があると思われます。

システム開発・SESへのコロナショック

システム開発は巨額の規模に及ぶことも少なくなく、そうなれば稟議も経営会議承認レベルになりますから、年間予算での組み換えがどこまでスピーディに間に合うかどうか、組織の体質と経営者のスピード感に依るところが大きくなっています。

問題が本格化したのがちょうど「新年度突入後すぐ」というタイミングの悪さもあって、旧態依然としてコスト管理の甘い巨大組織ほど、修正が遅れ、遅れた分余計に大きくなった修正幅の方針転換が襲い掛かってくるのは、2022年3月期予算編成のタイミング、つまり2021年になってからではないでしょうか。

しかし素早い対応をしている企業も少なくなく、特にSES案件は切りやすい面もあって、一部で聞いた話では手持ちの案件数が60%超減るという、如実な影響が出たりもしているようです。

「債務の発生は役務の提供とセット」という法的な原則があるため、仮に契約の途中で切った際にそれが請負開発であれば、出来ているのがどれほど中途半端で使えないものであってもその分だけ支払わなければならず、その後の開発はかなり難しいものになります。

規模や納期の変更などをする場合、交渉して新たに契約を巻き直さなければならず、発注元と受注先において利益相反する要素が多い為、交渉はかなり難航する事が予想されます。

しかしSESの場合、人員を減らすなどの規模のコントロールは受託に比べればやりやすく、大抵は月ごとの役務と支払いのセットになっているため、月末で契約途中終了にする、というのがより素早く発生します。

そのため、4月時点でそれほどの案件の消滅が起こったようです。これはエンジニアの方にとっては死活問題で、4月から突然仕事が無くなった・・・という事になりますし、SES企業にとっては、空き稼働という問題が膨らめば、資金繰りが急速に悪化します。

システム開発の「コロナショック後」

システム開発の業界はこれまではそれなりの好景気であり、エンジニアの数が不足しがちで、良い人の奪い合いでした。

それがコロナショックで既に一変しており、次々に閉じていく案件に対し、エンジニアが余る状況となり、逆転しています。

この影響は、上記のように2022年度になるまで続くのではないでしょうか。

しかし「リセッションが起きる」という事は、今後にチャンスがあるという事でもあります。

一時的に絞られていくシステム開発の現場は、「本当に必要とされるシステム、本当に必要とされるエンジニア」を自然に選別していきます。

かつての「年功序列型」に代表される、実力も無いのに経歴だけで待遇を得ている人にとっては、とても厳しい展開が待ち受けているかもしれませんが、実力さえ身につければ、それがより適切に評価される環境となっていきます。

そういう意味では、頑張った人が適切に報われる、そんな状況にもなっていきますから、人によっては間違いなくチャンスになります。

また、企業にとってはキャッシュを確保するという大変な部分がある反面、そこで耐え抜いて、その間に他から流出してくる良い人材を集める事が出来れば、再び投資局面になって経済が伸びていく際に、大きく伸びる事が出来ます。

あいにく一部で言われるような「2020年中のV字回復」は楽観的に過ぎると思いますが、それでも回復局面は確実に訪れます。

それまでに無駄をそぎ落として、良い人材を集め、備えていけるかどうか。 ひとりひとりの力が今まさに、試されているのだと思います。


(※編集部注:本コラムは執筆者の個人の考えによるものです。当サイト・運営会社の見解ではありませんので、予めご了承ください。)

 

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